「つみきのきみ」

作業時間は今日の9:10~10:10の一時間。学校から投稿だ!


より高く高く、もっと上へ上へ。
数あるおもちゃの中で、君のお気に入りは積み木だった。
人形で役を演じた、積み木の国でごっこ遊び。
あの頃の僕たちは、幸せだった。
そんな幼い頃の記憶。感傷に浸るのはもうやめよう。
状況は変わった。僕も今は、一国の兵士。
――僕は彼女を、止めなければいけない。
帰りたくなる幼心を、帰れないように振り払う。
何度も訪れる残像の彼女……身分などなかったはずなのに。
張り詰めた空に刺さる冷気が、白く舞い落ちるのを予感させた。
寒くなるほどに思い出す、温かい気持ちはいずこへ行ったのか。
この身を包むのはもう、暗く深い悲しみだけ。
城への道をただ、踏み締めて切り裂く。
虚ろな目の兵士、偽装された草花。
およそ生気は無いのに、意思だけは持っていて。
僕を城へ入れまいと、襲い掛かってくる。
拒絶の意思。城主の命令。それを切り裂き、足を踏み入れた。
意思を持って襲い掛かる無機物たちを、心凍らせ切り払う。
階段を一歩一歩上り、辿り着いた玉座。
そこにあったのは、一面に積み上げられた積み木や玩具。
自分の殻に閉じ篭る、哀れな彼女。
彼女の積み重なる怨嗟は、彼女に異能を備えてしまった。
積み木のお城。その建造は実社会においても建造を意味し、それの崩落は建築物の崩落を意味する。
そればかりか人形を初めとする玩具の全てが、外界の全てに対応する。
彼女の気が立ち、当り散らしたその瞬間。外界の建物は幾つも崩れ去る。
その力のせいで、建物に住まう人々は何人も圧し潰されて逝った。
彼女が目指すのはバベルの塔。人々が言語を共有していた神代の、神へと近付く為の塔。
空想的で実現不可能な計画などではない、至って現実的な目的。
なぜなら彼女が持っている力は、それをも可能にする力だったから――
……辛かったよね、あの頃は幸せだったのに。二人共に遊んだ、幼い頃。
共に歩もうと約束した、星空の夜。僕らの両親は――殺された。
担がれ、攫われ、離れ離れ。叫ぶ声も空しく。
僕は奴隷として仕えたけど、主に見出され。腕を認められて、兵士になった。
君は売られ歩き、貴族に買われた結果、王族に嫁いだんだったよね。
ただ、それだけだったなら、良かったのに……
虚ろな目に浮かんだ、危うい笑顔。うわごとの様に繰り返す「お兄様」。
かつて僕らは――兄妹、だった――
人はいらない。数え切れないほどの群れを成す。気持ちの悪い。
近付くな。近付くな。わたしに近付くな。
わたしはここで積み上げていれば良いんだ。
ただ、一つ一つ積み上げて、空を目指せば良いんだ……!
当り散らそうとするその手を、僕は握り締める。
「罪深き姫君」は混乱し、暴れて振り払おうとする。
そんな彼女を抱きしめて、ただ、落ち着くようにささやく。
「妹」は涙を流し、目には光が灯った。
なんということでしょう。わたしは罪を重ねてしまった。
身に余る力を宿して、人々を玩んでしまった。
わたしはかつて、玩具みたいに遊ばれた。
だからこそ、人を玩具のようにして遊んではいけないと知っていたはずなのに。
ああなんて……ひどい、ひどい、ひどい……
――心配することは無いよ。君は何にも悪くなんか無い。
もう僕たちしかまともな人間はいないだろうけど、君のせいなんかじゃない。
僕は、剣を持った。君は塔を作れる。……神に挑もう。
妹に悲劇の力を授けた神を、僕らを引き裂いた神を。
傀儡の様な人々と一緒に、みんなで挑もう。
玩ばれた運命を、未来を、取り戻すんだ――
罪着飾りし、積み木の君。
その顔に浮かんだ悲しげな笑顔。僕は、変えてみせる……
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○あとがき
タイトルとかのアイデアをもらってたので、さらーっと書いてみた。
うん、なんか久々に短い時間でさらっと書いた。
色々な影響を感じますが、まあそんなもんだろう。


終わりや終わり! 終了!!

書いた人: 久世うりう (kuzeuriu) お問い合わせ


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