8/20(日)のCOMITIA121、ひ07a「少女真理教」では、『青春小説合本!! タナバタオトメ。』と題しまして、SSを2本載せたコピ本を頒布する予定です! 水蓮氏は七夕を題材としたジュブナイル風、私がプラトニックできもちわるい百合系を書いてます。表紙はこんな感じ! pic.twitter.com/4u7kRsDES7
— くぜうりうCOMITIA121:ひ07a (@kuzeuriu) 2017年8月18日
ひ07a、ひ07aのサークル「少女真理教」です!!
というわけで、ちゃんと本を出すことができそうです。
8月20日(日)開催のCOMITIA121に合わせた新刊についての情報記事でございます。
「青春小説合本!! タナバタオトメ。」と題して、水蓮氏の「タナバタノソラ」と私の「乙女の悩みと時季の花」という2本を載せた、小説本となります。
A5版のコピー本で、頒布価格は300円を予定。
1つのページに文字をぎゅぎゅっと1000文字以上詰め込んで、ざっくり50ページくらい。
当日は気軽に立ち読みできるよう準備いたしますので、ぜひぜひ雑談がてらゆるーくお越しください。
Terrariaかブレスオブザワイルドしながらお待ちしております。
イベント後の公開などは全くもって未定です。まずはお知らせまで。
掲載作品サンプル
水蓮氏の作品『タナバタノソラ』は、ブログの方にサンプルが掲載されていました。
以下、私の作品『乙女の悩みと時季の花』のサンプルです。
全体の6割くらい載せてます。
お楽しみ頂ければ幸いです。
1.プロローグ/お姫様への憧れ
――お姫様になりたい。
女の子として生まれたのなら、誰しも一度は、憧れるものである。物語で見聞きして瞼の裏に焼き付いた、その輝かしい存在に。時に困難に直面しながらも、決して色褪せない、麗しの存在に。
しかし、やがて成長し、教養とともに現実を認識するにつれて、抱いていた夢をそっと置き去り、女の子は女性になるのである。
香織もまた、そういった女の子の一人であり、例外ではなかった。
――私は、お姫様じゃない。
彼女の自覚は、小学校で予感となり、中学校で確信へと至った。ただ、彼女の場合は予感ではなく、不安と表現するのが正しい。幼い彼女は、無敵だった。他の女の子がどれだけ可愛かろうと、男の子にどれだけ笑われようと、自分はお姫様になるのだと、ひたむきに信じられたのである。
小学校の高学年に上がってすぐに、変調は訪れた。自らの体が迎える、その兆しに、自分がいつまでも女の子ではいられないということを、いつまで女の子でいられるかわからない不安を、有無を言わさず突きつけられたのである。
それから、女性になるまでには、さほどの時間を要さなかった。程なくして決定的な変化を迎え、自分が普通の女性で、特別な女の子なんてそうはいないのだと、香織は諦観した。
高校へ進学する今となっては、もう少し膨らんでほしい、逆に身長は少し伸びすぎたと、女性としての悩みと向き合うまでになっている。
お姫様という、特別な女の子に憧れていたことなど、忘れてしまったかのように。
しかし、香織は出会ったのである。
サクラが咲く春、花びらの舞う校舎で。
2.お姫様との出会い
――私は、見惚れてしまった。
思わず。不意に。出し抜けに。女なのに、同じ、女に。
その女の子は、樹を見上げていた。私からは、表情は見えない。
目を引くのは、ふわふわと緩やかに波打つ、プラチナブロンドの髪。樹から舞い落ちるサクラの花びらが、いくつか髪へと埋もれてしまっている。その毛の流れを追った先には、制服であるブレザーの袖。袖から伸びる手、しなやかな指先。くすみ一つ無い、白い肌。
女の子は振り向き、私を見て、少し困ったようにして、微笑んだ。
私は窓を開けて、声を張り上げる。
「あ、あのっ!」
女の子は、驚いたように、動きを止める。……いや、女の子だけではない。辺りにいた人全て――教師や生徒、その親まで――が何事かと足を止めて私を見ている。
声を張り上げ、視線に囲まれてから、気づく。声をかけて、私はどうしたかったのか。私自身が、いまいちはっきりとわかっていない。
「ええっと……ちょっとお時間、よろしいですか?」
とりあえず、アイコンタクトを試みつつ、少し控えめに、女の子へと訪ねてみた。
女の子は、二回、こくこくと頷いた。
入学式が終わり、私はめでたく高校生となった。JK。花の女子高生である。
初めてのホームルームを終え、両親は保護者向けの懇談会にそのまま出席するとのことで、私は晴れて自由の身。直帰すれば家では普段できないアレやコレもたくさん満喫できると思ったけれど、せっかくだし、軽く校舎を一周しよう。そんなことをぼんやり考えながら、ぶらぶらと校内をうろついていた。
そんな折に、サクラの木を見上げる女の子を見つけ、思わず呼び止め、靴を履き替え、今、その隣へ辿り着いたのである。
女の子……そう、この子はとても、女の子だった。私が幼い頃に憧れていたお姫様を、そのまま形にしたような、そんな風貌をしていて……とても、眩しい。特に、サクラの木を見上げる様は、とても幻想的だった。
「いきなり呼び止めてごめん」
まずは素直に謝る。なにせ、私自身、なぜ呼び止めたのかと尋ねられたら、困る。正直、自分でも自分の言動が説明できない。
「ううん。少し、びっくりしたけれど」
女の子は、首を横に振って応える。不快には思われていなかったようで、まずは安堵する。
「私、三隅香織。よろしくね」
「わたしは……暮崎千歌子」
暮崎、千歌子。……うん、覚えた。勉強を覚えるのは苦手だけれど、人の顔や名前を覚えるのは得意な方だ。
「千歌子さんも、一年生だよね?」
訪ねたものの、実は、リボンの色を見れば一年生だというのはわかる。今年の新入生は赤色で、二年生が緑色、三年生が青色だ。では、なぜ確認したのか。
一つは、動揺。女の子、なんてややもすると失礼な印象を抱いてしまったのが納得できるくらい、私は千歌子さんの背丈の低さに、動揺している。167センチの私の肩よりも少し低いので……たぶん、150センチに満たずといったところだろうか。しかし、これはもう一つに比べれば、些細な理由である。そのもう一つというのは……私は今、話題を探している。それもかなり、必死に。
「ええ、そうです」
このままいくと、天気の話題だとか、最近のニュースだとか、そういった当たり障りのないことを話すことになる。いや、でもそういうことを話したいのではなくて、かといっていきなり趣味だとか、そういうプライベートな面に踏み込むのもなんだか気が引けるし……ああ、何をどう話したら良いのだろう!
「千歌子さん、かわいいよね」
「えっ? あの……」
私の口から飛び出した発言に、千歌子さんは、かなり面食らった様子。それはそうだ。私だって、自分の発言に驚いている。二言三言交わしただけの相手に、可愛いね、なんて、まともな会話とはなかなか言えない。
うん、本心だけれども。可愛いなぁ、なんだか守ってあげたくなるような魅力があるなぁ、なんて思ってはいたけれども。こんなに唐突に切り出してしまうと、なんだか、欲望渦巻くおじさんみたいだった。君かわいいね、下着はどんなデザイン?みたいな。事案発生の瞬間だった。
「あ、えっと、別に変な意味じゃなくて……」
しどろもどろになる私。こんなに挙動不審になったら逆に訝しまれるでしょ、と思いつつも、弱冠十六歳の私、咄嗟に思考を落ち着かせる術は持ち合わせていなかった。
「ふふっ」
千歌子さんは笑った。堪えきれずついに、といった様子で、吹き出していた。
途端に恥ずかしくなって、耳まで熱くなるのが自分でもわかったけれど、彼女が笑ってくれることが、なんだか心地よかった。
「はあ……」
「どうしたの、溜め息なんかついて」
お母さんに指摘されて初めて気づく。溜め息ついてたんだ、私。
「いやあ、どうしたってこともないんだけどねえ」
そう、別に悩んでいるとか困っているとか、そんなことが溜め息の原因ではない。
理由はとてもシンプル。かわいい千歌子さんを思い出し、余韻に浸ってうっとりとしていただけだ。
高校生にもなってお姫様なんて、口にするには抵抗があるけれども、小さい頃から本当に憧れていたお姫様を実際に見たとも言える今、この高揚は抑えようもなかった。仕える姫を探し歩き、長年の旅路の果てに出会えた騎士のような心持ちである。姫になりたかった過去は水に流させてほしい。
「気持ち悪いね、あんた」
見透かされたように言われてぎょっとしたが、自分がニヤけていることに気づいて二度驚いた。これは確かに気持ち悪いわ、私。
あの後の千歌子さんとの会話は、明日からもよろしくね、なんて差し障りのない内容をしただけ。私はふらふらと家路に着き、悶えながらごろごろしていたところ、気づいたら両親が帰ってきていたのであった。
「俺に似ている素敵な子でも見つけたのかな」
お父さんは今日も元気そうだ。何を言っているんだ、こいつは。
いや、素敵な子を見つけたという点は、ほぼ「慧眼お見それしました」なのだけれども。自身に似ていることを素敵と言い放つセンスは、なんというか、凄まじい。冗談でもちょっと、受け付けない。
「気持ち悪いね、お父さん」
「褒め言葉として受け取るよ」
言ってから、図らずもお母さんに似た返しをしていたことに気づいて、血は争えないな、と思った。
……お父さんについては、気持ち悪さではなく、この不屈の精神を見習っていきたい。
かくして、お父さんにもお母さんにも全く似ていない、むしろおとぎ話の登場人物によく似た子と、私は出会ったのであった。
3.お姫様の悩み
入学から始まった四月もあっという間に過ぎていき、早いお家は、軒先に鯉のぼりを掲げている。
私は彼女を千歌子と呼び捨てるようになり、千歌子もまた、呼び捨てとまではいかないまでも、ちゃん付けで呼んでくれるくらいには進展したのだった。
「千歌子、それ自分で選んでるの?」
「え、うん。そうなの」
私は千歌子の下着を指しながら尋ねた。私が脱がせたわけではない。学校が、脱がせたのだ。いわゆる、身体測定だった。
千歌子が身に着けていたのは、白を基調とした装飾の少ない、無垢で素朴なセットものの下着だった。……いや、とても失礼だとは思うものの、自分にウソはつけない。感じたままを素直に表すなら、低い身長も相まって、千歌子が小学生だと説明されても、全く違和感がない。
「子供っぽいよね」
言いながら、千歌子は困ったように笑った。
「……千歌子ってさ、笑うとき、なんていうか……困ってる、みたいな表情するよね」
図星だった。面と向かって言うには勇気が足りなかったので、代わりに、初めて会ったときから感じていたことを、思い切って尋ねてみる。
「あー……それ、よく言われる。小さい頃からのクセみたいなものだから、気にしないでほしいな」
ひと月近く一緒に過ごして既にわかってはいたが、別に困ってはおらず、ヒョウジョウキンの使い方にクセがある、ということらしい。いつも怒った顔してる、みたいな。愛想笑いを強要され続けてきたとか、むしろ全てが愛想笑いだとか、そんな事情はない。ない……はずだ。
「でも、今は困ってるというか……悩んでいることは、あるかな」
千歌子が、悩んでいる。それは聞き流せない。しかし、何に悩んでいるのか訪ねようとしたところで、千歌子の測定が始まった。……全く、空気を呼んでほしい。無理か。
その後も、悩みの話題を切り出すタイミングをどうにも見つけられず、体力テストだの中間テストだのテスト漬けの日々が続き、最終的に一ヶ月ほど、歯がゆい日々を過ごすことになった。
ここで、歯がゆさの隙間に詰まっていた(字面がデンタルヘルスめいている)ことを振り返っておきたい。
まず、身体測定の結果をちらりちらりと確認したところ、千歌子の身長、147センチ。おおよそ予想通りではあるけれど、数字にすると、なんというか……すさまじい。測定するまでは741センチの可能性だってあったのに、測定したことにより、147センチに収束してしまった。そんな神秘を感じた。私は1センチ伸びてた。いらない。
体力テストについては、千歌子、意外にも優秀。全8種目のうち、握力を除く7種目が9点以上の高得点を記録。意外と言うのは失礼かもしれないが、サクラの木の下で佇んでいた印象が強かったため、想像もできなかった。私はうん、およそ平均でした。5段階でCくらい。
中間テストに至っては、全教科もれなく9割キープ。なんだこの子。10科目600点前後の私からすると、そこから5割増を超える(そしておよそ天井に近い)点数というのは、住む世界が違うようにさえ感じてしまいそうになる。
そんな千歌子も下着は幼くてかわいいんだよなあ、へっへっへ、とか思いながら一人でニヤニヤと笑っていると、その千歌子がお花摘みから戻ってくるのが見えた。
「千歌子、すごいよね。中間はどれも点数良かったし、体力テストも運動部並みだったし。しかもかわいいし!」
この「かわいい」というのは最初に面と向かって伝えてしまった「かわいい」とは違っていて、「身長が低く、下着選びの(および、よく観察すると文房具などの小物も)センスが純朴で、かと思えば体力や学力といった面で高い能力を発揮するギャップも持ち併せている。この存在に対して抱く感覚をどのように表現すればよいのかわからないが、とにかくかわいい。」といった気持ちを「かわいい」の4文字に込めている。まごころを君に。
私の気持ち悪さがとうとう伝わってしまったのか、思うところがあったのか、少しの間を置いたのち、千歌子は躊躇いがちに口を開いた。
「前に、悩んでいることがあるって言ったよね。わたし、……まだ、きていないの」
押し黙ってしまう。何が来ていないのか、口に出して問う、その寸前に、不覚にも悟ってしまった。私には、そのとき発するべき言葉が思い浮かばなかったのだった。
続く言葉を聞く。ぽつり、雫が土を打つ。程なくして、ざあざあと雨が降り注いだ。
終わりや終わり! 終了!!
書いた人: 久世うりう (kuzeuriu) お問い合わせ
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