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「プロット」の意味について、説明を試みる。

Wikipediaの「プロット」の記事が非常に読みづらかったので、ノートに書き込みしてきました。

以下、「プロット」の記事周りの問題点と、作法なんかも少し絡めつつ私なりの「プロット」の説明をしようかなーと思います。

Wikipediaの記事に興味がない人は、じゃあプロットって何なのまで読み飛ばしてください。

現行記事の問題点

ざっくり言うと、記事が乱れています(ざっくりすぎる)。

Wikipediaは正確な情報源ではないとはいえ、一次的な情報源として目にする人が多いサイトです。その記事の乱れは、不特定多数の人間に対し、認識の乱れを生じさせることに繋がります。

ひいては、物語制作に携わろうと考えた初学者の方が、速攻で挫折してしまうことにも繋がりかねません。大問題です。

Q. 何が乱れているのか?

では、何が乱れていて、なぜ読みづらいかって話です。

「プロット」の記事には、冒頭に「プロットとはストーリーの要約である」と表記されています。その後、「ストーリーの設計図として用いられる」とあります。ふむ、まだわかる。

ではストーリーとは何ぞやと、「ストーリー」という語句についての説明を見ると、「出来事を起こる時間の順序どおり並べた文章」とあります。

出来事とは、発生する事象や事実。つまり、作品における不可逆な事実の連続、いわゆる時系列こそが「ストーリー」である、と読み取れます。

「ストーリー」からリンクされている記事に至っては、「物語世界の中で起きている出来事が起こった時間に沿って並べられたものがストーリーである」とまで書かれていますしね。

……しかし、推理小説などに見られるように、物語は語る順番(Narrative)と時系列(Story)とが必ずしも一致するとは限りません。
そして、プロットを語るとき、どちらかというと語る順番の方を意識して、作成したりプレゼンしたりするのではないでしょうか。

そうなると……実際の用い方と、Wikipediaでの説明は異なるのではないでしょうか?
「ストーリー」を要約したものと、「プロット」とは、本当にイコールになるのでしょうか……?
ほら、不安になってきたんじゃないですか!?

A. 時系列的なニュアンスが不要。

というわけで、「ストーリー」という語句が多義的に用いられ、曖昧になってしまっているのが問題かなあと感じます。

たとえば英語であればStoryとNarrativeというように区別されるべきものが、全て「ストーリー」と表現されています。確かに、どっちも直訳すると物語にはなるんだけれども。

現行記事はたぶん英語版におけるPlot (narrative)を参考に編集されたものと思われますが、そちらには「プロットは、"物語におけるキャラクターの将来の行動を計画すること" を指す動詞だよ」というように表記されています。

英語版記事において、「プロット」の中には作品内での時系列という意味合いは含まれていないのです。

キャラクターの行動を描いたものが作品になるわけで、どちらかと言えば、ストーリーではなくナラティブを要約したものこそがプロットである、と表現した方が、実態に近いのではないでしょうか。英語版の記事タイトルもNarrativeだし。

プロットがいわゆる設計工程である以上、実際の執筆に堪える設計作業を行う必要があります。シナリオの構成を無視して、シナリオの設計をしたとは言えません。

時系列をストーリーと呼ぶのであれば、それを要約したものは、年表と呼ばれる設定です。

読者が目の当たりにする順序(Narrative)と物語内の時系列(Story)がどちらも「ストーリー」と表現されていることで、記事に混乱が生じています。

おそらく海外でも一般的・慣用的に「物語」に相当する語彙は「Story」の方で、より本質的・学術的な使い分けを意識する際に「Narrative」などを用いるのでしょうけれども。いずれにせよ、その「使い分けを意識する」方の記事構成でありながら区別せずに書くのは、確実に混乱を招きます。

でも、編集する気はない!!

ただ、ノートへの書き込みはしたものの、あまり熱く議論するつもりはなかったりします。私好みに更新してよいのなら更新しますけれども。

物語を語る上でのNarrativeの用法に近い日本語は「構想」だと思うので、冒頭の要旨を『プロットとは、物語の構想を簡潔に記したもの』とでも修正した方がいいんじゃないかなーと思うのですが、まあ実際10年以上放置されてるし、私は困らないのでいいかなって……

あと個人的には、構成手法にまで広範に触れているせいで記事が冗長に感じるのでバッサリとカットして別記事として立てたほうがいいんじゃないかと思うのですが、まあ私は困らないので以下同文。

じゃあプロットって何なの

これで終わると、ここまで読んでくださった方に対してあまりにも不親切なので、私が認識している通りの「プロット」について、簡単に説明しておきます。編集する気はないが、説明する気はある。

位置付けを確認しよう!

映画やゲームのシナリオでも小説でも漫画でも何でもいいのですが、そういった媒体で表現するための「物語を考えよう」というときに、プロットを作成します。

(あ、以後は最終成果物となる媒体に関わらず、一律で「シナリオ」と表現しますね。脚本でも小説でも漫画でも、ぜんぶシナリオ。)

で、制作フローとしては、ざっくりと書くとネタ出し→プロット→シナリオです。作成したプロットに脚色をしたものがシナリオになります。

プロットに含まれるべきものは何か

……で、日本で言う「プロット」は、英語圏で言う「トリートメント」にあたります。

こわいですねー。特異点ですねー。プロット出せって言われたら警戒が必要です。

トリートメントは、シナリオに含まれる全ての場面をそれぞれ要約してまとめた文書です。シナリオの本執筆に入る前のプレゼン資料だと思ってください。

日本においてはプロットもストーリーもトリートメントもまとめて「プロット」と呼ばれがちですけれども、今回は区別して捉えようという記事なので、分解して説明していきますよ。

日本の「プロット」の中身

で、日本における「プロット」を分解すると、Plot、Story、Treatmentの3工程に分かれるわけですが。

上の方でさんざんStoryガーNarrativeガーってやった後に「ストーリー」って出てくると混乱するはずなので、言い換えを行わずにそれぞれ説明していきますね。

  1. Plot=シナリオにおける要点の整理
  2. Plotでは、シナリオにおける必要最小限の事象だけを記述します。

    いわゆるターニングポイントをまとめる作業です。Plotは、物語の根幹を成す事象だけで構成されています。

    ゲームのシナリオだったら、シナリオの分岐に関わる選択肢などが、ターニングポイントとしてイメージしやすい例でしょうか。

    グラフとして描かれた線が実際にはデータの連続であるように、物語という一連の流れを線に喩えるのなら、Plotとは語義通りに点であり、その流れを決定付ける運命的な事象なのです。

  3. Story=要点に対する補間を行い、場面とする
  4. Storyでは、Plotにおいて列挙した要点を、場面として構築していきます。

    Plotだけで大まかな線の形は決定していますが、まだ線ではありません。

    事象と事象との間にあるべき、別の補足的な事象であったり、心理・背景について描写するための場面を設け、なだらかな線に、ひいては面にする必要があります。

    たとえば、人物や舞台、道具など、受け手の理解が必要な情報については、それを説明する場面が必要となります。

  5. Treatment=各場面に対して補足を行う
  6. Treatmentでは、Storyにおいて構築した場面について、大まかな説明を加えていきます。

    数行程度のいわゆる概略が、場面ごとに記されている形となります。

    ここで作られる文書が、企画において掲げるコンセプトやテーマをどのようにTreatmentするかという一つの解答になるわけですね。

    他の人(多くは協業者やスポンサー)にプレゼン資料的に見せることになるので、必要に応じて設定表なり年表なりの資料を添付しましょう。

本当にプロットが先なの?

とはいえ、実際は綺麗にキッチリ工程分けすることは難しいかなぁ、とは思います。

PlotやってるときにStoryやTreatmentにおいて触れるべき詳細な内容が浮かぶこともあるだろうし、そもそもネタ出しの時点で浮かぶものが、書きたい場面や台詞だったりします。

だから、別に誰によってどう定義されていようが、自身の作業にはあまり関係がありません。実際、私も、自主制作の場合には、省略できる限りを省略し、大雑把に進めていきます。

一人で小説を書くのなら自分が小説を書けるだけの準備さえできていればよいですし、プロットやトリートメントの提出が必要なら、そういった要求通りの文書を仕上げられればよいわけです。

ただ、やはり大まかな流れとして認識しておくと、工程に沿うか否かに関わらず、「自分が今している作業が何なのか」というのが明確になり、捗るのは確かです。

以下、余談。

おまけ1: トリートメントとシノプシスとの違いについて

Wikipediaの原稿記事には「トリートメントとシノプシスに大きな違いはない」とありますが、違います。

どちらもある意味では「ストーリーの要約」と表すことができ、非常に似ているように感じますが、作成タイミング的にもトリートメントは「このようにシナリオを作っていきますよ」というシナリオ作成方針の要約、あるいは試作であり、シノプシスは「こんなストーリーです」というストーリーそのものの要約です。

トリートメントはシナリオ作成前の叩き台として、幾分か詳細に記載され、場合によっては制作関係者へのプレゼン的な要素も付記します。シノプシスは、ストーリーを簡潔に伝えるべく、短く要約します。

粒度としてはトリートメントの方が大きく、トリートメントの中にシノプシスが含まれることもあります。トリートメントを企画書のようなものだと捉えればイメージしやすいでしょうか。

で、このトリートメントが日本ではプロットと呼ばれる、と。これで「文脈で察しろ」とか言われるんだからこわい国ですよね。

おまけ2: すべてはシナリオ

完全に余談なのですが、この記事の途中で、すべての最終成果物を「とりあえずシナリオ」と乱暴にまとめました。

最終的には違う媒体になるとしても、構想段階までは共通している……つまり、あなたも!わたしも!みんなシナリオを書いているんだ!!!という私の認識に基づいています。

舞台も映画も小説も漫画も、全ての物語には根底に脚本が存在しており、最終成果物が違うだけなのです。そう考えると中二病の心が疼いてきませんか?

だから作品を楽しんだあとは、悔しそうにしながら「これも貴様の筋書き通りというわけか……」とかテンション高めにつぶやくといいと思います。

はっ……しまった……!?

ていうか私、新作のプロット書こうとしてて、「プロット」に関する認識を更新しようと調べ始めた結果、この記事を書くに至ったんですよね。

つまり、プロット作業が進んでないんですよね。

それも今回の説明で言う、海外におけるプロットの方。Plot, Story, Treatmentで説明したうちのPlot。
ネタ出し→プロット→ストーリー→トリートメント / シノプシス→シナリオの流れで言うと、2番目にあるやつ。

……くそっ……これも貴様の筋書き通りというわけか……!!

私は、概ねEvernoteで作業します。

  1. ネタ出し
  2. 思いついたことを片っ端からEvernoteに書き連ねていく。そのうちストーリー的なものがおぼろげに見えてくる。

  3. プロット
  4. 引き続きEvernoteで作業。新しいノートを作り、コピペしたり整えたりしながら、見えてきたストーリー的なものを整理していく。入れたい場面なり表現なりはネタ出し用のノートに突っ込んで、プロットの方はとにかく最小限になるよう削る。

  5. ストーリー
  6. これまたEvernoteで作業。プロットのノートをコピーして、テーマやキャラクターを表現するにあたって必要な場面とか足したりする。主に足す。

  7. トリートメント / シノプシス
  8. やはりEvernoteで作業。プロット作成と併せて暫定シノプシス的なものを作成していて、ストーリーを作った時点で更新したりしている。
    トリートメント的なものは、外部公開用には作っていないけれど、自分が作る場合においてもキャッチフレーズ的なものがあると方針がブレなくて良いので、こっそり用意したりしている。

  9. シナリオ
  10. シナリオや小説などの文章で表現する媒体だったら、秀丸エディタを使うことが多いです。稀にサクラエディタも使用。
    書くと決めたストーリーを、シーン単位で情感たっぷりに書いていく。情感たっぷりに。

特殊なケースとして、前回コミティアで小説本向けに書いた『乙女の悩みと時季の花』のように「ノンプロットで」と言った場合は、上記のほとんどを秀丸エディタ上で、コピペを駆使しながら構成および執筆していきます。
掌編といえども破綻するときは破綻するので、テーマや人物・舞台の設定において、破綻しないような設計を一応は心がけつつ、全編をアドリブで書きます。

プロット……書かなきゃ!!


終わりや終わり! 終了!!

書いた人: 久世うりう (kuzeuriu) お問い合わせ


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